神様、俺は妻が心配でならんのです
 妻にはもちろん親族がいて、シーミーや盆の行事も毎年のように行っていたが、仲村渠といえば盆の時くらいに向こうの親族の方へ顔を出しても、ほとんど酒を飲んでいるばかりだった。

『自分で解決しがたい悩みや相談事なら、ユタに見てもらった方がいい』

(以前、俺にそう教えたのは、誰だっただろうか?)

 と、その時、彼は耐えきれずくしゃみを一つした。

 誰が言っただとか、そももそ今はどうでもいい、と彼は胸のうちでイライラして吐き捨てる。

(もし平気な顔で今、そう勧めてくる輩が目の前に現れたら、ぶっ飛ばしてやる)

 そう苛立ちつつ、仲村渠は水晶ばかりが並べられたテーブルの隅に置かれていたティッシュの箱を、勝手に引き寄せて、忌々しく鼻をかんだ。

 鼻を噛んだ際、御香と線香が混じった香りが己の鼻腔からも出ることに気付いて、彼は愕然とする。

 自分の肺が室内の空気に染まっており、しまいには口からも出る。

 仲村渠はしばし言葉を失った。調子外れの長い祝詞を、足音と共に奏でていたユタの男がそのタイミングで名演技ぶったたくましい声を張り上げた。
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