君が死ねばハッピーエンド
「もし…いつかまたちーちゃんに会えたら聞きたいことがあります」

「どんなこと?」

「あの日、私の首を絞めたちーちゃんは、あのまま朔が来なかったら本当に私を殺していたのかなって。私は、明確な殺意を持って、ちーちゃんにハサミを振りかざしました。本当に殺してやろうと思った。″ねぇ、ちーちゃんはどう?本当に私に死んで欲しかった?″って…」

ちょっと空気の入れ替えしようかって、お姉さんが窓を少しだけ開けた。
まだ一度も病院の外に出ていない私の頬を、一月の風が撫でた。

「どっちにしても悲しいわね」

「そうですか?」

「本当に殺したかったんだとしても、本当は…生きてあなたとやり直したかったんだとしても…。千種さんの心の中の鬼があの子を狂わせてしまったのね」

ちーちゃんに会えるのがいつになるかは分からない。
その間に私は新しい出会いをして、別れも経験していく。
それでもずっとちーちゃんの存在を忘れることは無い。

こうなった今でもちーちゃんと過ごした長い月日を憎むことはできない。
ちーちゃんが居なきゃ、やっていけなかったことが山ほどある。

出会ってからずっと、一秒たりとも私を好きになってくれたことは無いかもしれない。
ただ朔を取り戻す為だけに、私に復讐する為だけに生きてきたのかもしれない。

それでも私はちーちゃんに会いたい。
そう思うことは許されるだろうか。

退院する前日の夜。
病室のドアがノックされて、さっき帰ったばかりのママが忘れ物でもしたのかと思ったら、ドアから顔を覗かせたのは渚先輩だった。

「シイナちゃん」

「渚先輩!」

「明日退院だって?俺もなんだ。その…無事に退院、おめでとう」

「先輩も…。あの、本当にすみませんでした。私に関わりさえしなければこんなことにはならなかったのに。私が先輩の人生を狂わせたんです」

「シイナちゃんに関わってきたのは俺の意思だ。そんな風に今までのことも全部否定されるほうが悲しいよ」

「先輩…。やっぱり受験は…」

「うん。春からは浪人生。高校は卒業させてもらえるみたいなんだけどさ、やっぱ世間にもこれだけ騒がれてるとね。俺もしばらくは落ち着いて勉強はできそうもないし。バイトでもしながら予備校に通って、ゆっくり元の生活に戻っていくつもり」

「バイトって」

「…どうかな。店長は戻っておいでって言ってくれてる。もちろん、シイナちゃんにもだよ。まぁそこは、朔くんとも相談だね」

先輩が少し、寂しそうな顔で笑った。

「そう…ですね」

苦笑いする私に、先輩は今度は声を出して笑って、息を吐いた。
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