ミル*キス
「って、やっぱ休みやんな」


日曜は定休日だって聞いていたのに。

なぜか急にスミレさんの顔が見たくなったんだ。



ああ……声聞きたいなぁ。


初めて会った時から、オレは彼女の声が気に入ってた。

なんか癒されるっていうか、ずっと話していたい……そう思わせるような声。



だけど携帯を手にしてみても、彼女のプライベートな連絡先なんてわかるわけもなく。

どれだけたくさんの人の番号が登録されていても、その時にほんとに会いたい人の番号がないなら、こんなもの全然役になんて立たないんだな……。

いくら探しても彼女の名前なんて見つけられないのに。

オレは意味も無く、アドレスをクルクルとスクロールさせた。


誰でもいいなら。

通話ボタン一つで、他の女の子を呼び出すことはできるんだろうけど。

今はそんな気分じゃなかった。


「しゃぁないな。帰るか」


携帯をパチンと閉じて、またトボトボと駅に向かう。


陽が暮れかけた空が、オレンジ色に染まっていた。


駅前にはロータリーがあって、その一角が、ちょっとした遊具なんかもある小さな公園になっている。

なんとなくその公園に足を進めた。



誰かのシルエットが見える。

逆光のせいで、顔までは確認できずにいた。

だけど近づくにつれ、輪郭がはっきりとしてくる。


その瞬間ドクンッて胸が高鳴った。


――え?

まさか……。



< 138 / 276 >

この作品をシェア

pagetop