ミル*キス
「んー……」


目を伏せて、しばらく考え込んだスミレさんは、やがて小さく息を吐き出した。


「行かなかったんじゃないかな。
昔の恋ってキレイなイメージで残っちゃうけど……。そういうのってだいたい幻想だったりするから。キレイな思い出は、触れずにそっと残しておくだけの方がいいような気がする」


「なるほどね~」


うんうんとうなずくルウさん。


「まぁ、誰にでも忘れられへん恋ってあるもんね」


スミレさんはそれには答えなかった。

だけどその横顔がちょっと寂しそうに見えたのは、オレの考えすぎだろうか。


なんとなくそこで会話が途切れてしまったので、オレはルウさんに尋ねることにした。


「ルウさんもあるんすか? “忘れられない恋”ってヤツ」


「まぁね」


フフンと鼻で笑う。


「マジっすか?」


大げさに驚くオレに、ルウさんはムッとする。


「失礼やねー。あたしだって、それなりに酸いも甘いも経験してるっちゅうの。結婚しちゃおうかなぁ……とか思ったこともあるしね」


「あ……その話聞きたい」


横からミーコが身を乗り出した。


「じゃぁ……」とルウさんは自分の思い出を語ってくれた。



「もう、8年ぐらい前のことやけどね……」

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