ミル*キス
「ちょっと……」


慌てて後を追いかける。


すると逃げるようにさらに足を速める。



「ちょ、待てって」


ひょっとして競歩の選手なのか?

なんて思わせるようなスピードで、さっと角を曲がった。


オレも角を曲がり、さらに声をかける。


「鍵、おい!! 鍵落としたって!!」


その声が届いているのかどうかわからないけど

彼女はさらにスピードを上げた。

いつの間にか全力疾走になってる。



これがハンカチ程度のものなら、もういいか……ぐらいに思って諦めるんだけど。


さすがに鍵はまずいやろ?


「おいっ。なんで逃げんの? ちょっ……」


まるで追いかけっこだ。


このあたりは、路地裏に入るとかなり入りくんでいる。


右に曲がったり、左に曲がったりしているうちに、今自分が北に向かっているのか、それとも南に向かっているのかすらわからなくなってきた。


それでも彼女を見失うまいと懸命に後を追う。


――ああ、オレって実は結構イイヤツだよな。


なんて自分の親切心に酔いしれている頃、ようやく彼女に追いついた。


肩をぐいとひっぱる。


「きゃあああ」
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