キスしないと出られない部屋


「天野さん」

「な、なんでしょう」

「こっち、向ける?」

「へ?」

 背後にいる先輩の方を向くには、体ごと向けないと難しい。しかし、体は先輩ががっちりと抱きしめていて動けない。顔だけ先輩の方に向けた。

 すると、片手で私の顎を捉えて少し上に向けた。

「ごめん。俺の方が我慢できそうにない」

「へ、ふぇっ!?」

「キスーーしても良い?」

 答えを聞く前に、じわりと顔が近づいてくる。私はそっと目を閉じてこくりと頷いた。

 ーー多分、キス……してる。

 唇に柔らかい感触がある。

 これが、キス。

 ファーストキスは、レモンの味がすると言うけれどそんなことはなかった。

 ただ、ドキドキしすぎて頭がおかしくなりそうだった。

 そんな時ーー。


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