キスしないと出られない部屋


 私は、全力で先輩の顔を両手で押していた。

 わぁあああ!先輩に触っちゃったよ!

「……何やってんの」

「あっ、す、すみません……!」

 慌てて先輩の顔から手を離した。さっきより、ちょっぴりだけムッとした顔になる。推しの機嫌が悪くなり、焦る気持ちもあった。しかし、それよりも初めて見るスネ顔にキュンとした。

 先輩、こんな顔するんだ。

「それじゃあ、気を取り直して」

 そう思ったのも束の間、また真面目な顔をして顔を近付けてくる。

 待って待って待って待って!

「待って下さい!」

「……今度はどうしたの?」

「わ、私!ファーストキスなんですっ!」

 だから、先輩のタイミングでとか、そういうのは無理です!と付け加え全力で首を横に振った。

「……俺だって、初めてだけど」

「へ……?」

 聞き間違え?先輩、今キス初めてって言ったよね……?

「……先輩、モテモテなのに……ですか?」

「モテてるとか関係ないだろ。キスって、好きな人とするもんだろ。好きな人に好きになってもらえなきゃ、キスなんかできねぇよ」

 先輩の褐色の肌でも、頬が赤くなっているのが分かる。私の先輩への推しとしての尊さゲージがグングンうなぎのぼりになった。

 先輩、イケメンでモテモテなのにテキトーに女子と付き合うんじゃなくて好きな人と付き合いたいって気持ち最高です。ハートをぎゅっと掴まれました。

< 8 / 28 >

この作品をシェア

pagetop