私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
第十章 ワルイコトはワルイコトです
目を開けたら、質素なホテルのような部屋が見えた。

「……ん……!?」

声を出そうとして、猿轡を噛まされているのに気づく。
さらに腕は後ろ手に、足首も縛られていた。

「んー、んー!」

縄が緩まないかとじたばたと暴れるが、緩むどころかさらにきつく締まった気さえする。

『気がついたんだ』

ドアが開き、入ってきたのは――ベーデガー教授だった。
私が転がされているベッドの傍に椅子を持ってきて、彼は足を組んでそこに座った。
余裕のある彼を、思いっきり睨みつける。

『そんなに睨まなくたって、説明してあげるよ。
なにせ長い船旅だ、時間だけはたっぷりある』

彼の言葉でここが船の中だとわかった。
よく見れば窓が、一般的なホテルのものではない。
しかしこの時点で私は、さほど危険を感じていなかった。
携帯は壊されたが、まだ腕時計がある。
きっと、炯さんがすぐに気づいて助けに来てくれる。
そう、信じていたけれど。

『ああ。
先に残念なお知らせをしておこうか。
助けを期待しても無駄だよ。
最近は腕時計にもGPSがついていたりするから、捨ててきた。
密航みたいなもんだから、もちろん乗船名簿にも載っていないし、外国船籍の船にそうそう簡単には立ち入れないからね』
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