私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした
アッシュ社長の一人娘ってだけで私には利用価値がある。
それで今まで、何度も誘拐されかけた。
ここまでのピンチは初めてだが。
それでさらに、三ツ星次期社長の婚約者という付加価値がついた。
一攫千金を狙う人間にとって、これほど利用価値のある人間はそうそういないだろう。

『僕はね、君が気に入ったんだ』

教授がなにを言っているのかまったく理解ができなくて、まじまじとその顔を見ていた。
だってそうでしょう?
気に入ったってだけで、誘拐とか犯罪とか危険を冒す?

『見た目が可愛いのもあるが、いつもにこにこ笑っていてなにも知らないお嬢さんって感じなのに、きっちり自分の意見は伝えてくる。
そういう大和撫子な凛音に惹かれたんだ』

熱弁してくる彼に引いた。
私は大和撫子ではない、ただのお転婆で世間知らずなお嬢様だ。
それは私自身がよく知っている。
教授の私像は、美化が過ぎていて気持ち悪い。

『それで、今回の報酬に君をもらったんだ』

にっこりと彼が私に微笑みかける。
……〝報酬〟ってなんなんだろう?
彼はただの、大学教授のはずだ。

『ああ。
大学教授は仮の姿。
本業は人身売買の斡旋をしている』
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