余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
『直接話さないと伝わらないよね』


友人たちに言われた言葉が脳裏をかすめた。


『表情とかイントネーションで伝わることがある』


萌の手が空中に浮いたまま止まってしまった。


本当に手紙で伝えていいのか、大好きな希相手だからこそ、口頭で説明するべきじゃないのか。


そんな気持ちがよぎり、萌の下駄箱から手が離れていた。


直接話をするには勇気がいる。


ちゃんと、順序立てて話せるかどうかの自信もない。


けれど希は真剣な相手には真剣に向き合ってくれる子だ。


きっと、笑わずに最後まで萌の話を聞いてくれるはずだった。


萌は覚悟を決めると、廊下のゴミ箱の中に手紙を投げ入れて、外へと出たのだった。
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