「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
** *
やっぱり、からかわれたんだ。
萌々香は悲しい気持ちになりながら、とぼとぼと店に帰った。
夕方の商店街は人気が増してにぎやかだ。灯りも徐々に灯り始め、あちこちに飾られたハロウィンのかぼちゃが口の端を吊り上げてにたにたと萌々香を嘲笑う。
店に着くと、かぼちゃのようににやにやと笑う母の貴子と美穂に出迎えられた。
「デート、楽しかった?」
「楽しくない」
美穂の問いにしょんぼりと萌々香は答える。
「ケンカでもした?」
「それ以前の問題」
そもそもあれはデートなのか。ただ一緒に商店街をまわっただけだ。
「お式はいつですか、って聞かれたのに」
母は残念そうに答えている。
さっき会ったおばさんがもう萌々香と男性の話を貴子にしていたのだ、とうんざりする。近所の仲がいいのは良いのだが、すぐに噂がまわるところは面倒だ。
「ハロウィンのイベントの一環だ、って言っておけばいいんじゃない?」
なげやりに答えて店頭のかぼちゃまんじゅうを見ると、すべて売り切れていた。
「これ、売り切れたんだ」
「あなたとデートしたスーツの人が来て全部買って行ったの。会社で配るんですって」
美穂が答えた。
「へえ」
宣言通り、買い占めて行ったわけだ。
それで責任をとったつもりか、と責めたくなる。
人の気持ちを弄んで楽しいのか。
彼が微笑むとそれだけで空気が輝いて見えた。
最初の冷たい印象とは違う優しさに、また胸がときめいた。
わかっている、勝手にときめいただけだ。
だけど。
結婚だのなんだのと言って萌々香の心を翻弄したのもまた事実だ。
さっさと忘れよう、と萌々香は心に誓う。
またお酒でも飲めば夢みたいに記憶は朧になってくれるだろうか。
「そういえば名刺をもらったのよ」
母がポケットから名刺を取り出して見せた。