だから聖女はいなくなった
 神官たちと他の巫女たちと、竜に祈りを捧げ、質素倹約な生活を繰り返す。それでも孤児院よりは、食事はよかった。
 奪う人はいない。分け合う相手もいない。自分に与えられた分を、自分のために食べる。

 ミレイナが神殿に来てから十年目。
 竜が目覚めた。

 竜が目覚めると、竜の世話をする聖女がすぐに選ばれる。聖女の役目は、穢れで汚れた竜のうろこを磨くこと。このうろこのすべてが穢れで覆われると、厄災が訪れると言われているからだ。大なり小なり、うろこの汚れと比例するとも言われているが、その辺の真相は竜にしかわからない。

 聖女に選ばれた女性は、月白の首飾りを神殿から授かる。そうすると、聖なる力と呼ばれる不思議な力が与えられる。
 その力をもって、竜の世話をし、国を厄災から救う。

 神殿が聖女として選んだ女性は、ミレイナだった。

 他の巫女からは羨望の眼差しを受けるなか、神官長より月白の首飾りを授かった。
 すると、身体の奥から何か特別な力が湧き出てくるような、そんな感じがしたのだ。
 それが聖なる力と呼ばれる不思議な力である。

 月白の首飾りを肌身離さず身に着けているミレイナは、竜の言葉が理解できるようになっていた。

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