だから聖女はいなくなった
『ごめんなさい……』

 ある日、ミレイナがぽつんと呟いた。

『私、やっぱり戻らなきゃならない……』

 すやすやと眠るラッティの横で、ミレイナは静かに涙を流す。

 戻るという言葉が何を指すのか、ユリウスは瞬時に理解した。
 あの場にいるのが怖いと言って逃げ出してきたのに、それでも戻ると言う。

『どうして……』

 掠れる声でユリウスは尋ねた。

『この子に、生きてもらいたいから……。竜が、怒ってる。このままでは、この国は……』

 それはユリウスも薄々と気づいていた。港町まで買い出しにいくと、聞こえてくるのは他の村や町の現状。特にネーニャ地方は寒波に襲われたとのこと。食糧や寒さから逃れるための支援も間に合っていないらしい。
 ここの港町も、最近では海が荒れることが多く、船が出せないと嘆いていた。そのため、漁にも行けないし他からの荷が届かない。

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