だから聖女はいなくなった

2.

◇◆◇◆◇◆◇◆

 サディアスは神殿に足を運んだ。
 王城からも白亜の建物が見えるが、馬車で三十分ほど離れている距離にある。

 神殿では神官と巫女が竜に祈りを捧げながら暮らしている。
 竜は、この神殿の奥にある竜の間と呼ばれる広い部屋にいる。ごろりと寝そべって、寝ているのか起きているのかわからないが、そこからレオンクル王国を感じているらしい。
 聖女は竜の間のすぐわきに私室をかまえており、竜に何かがあればすぐにそれを察して対処する。そのため、竜の世話をする聖女も神殿で暮らす必要があるのだが、今はそこにはいない。

 なぜなら、その聖女であるアイニスは王城で暮らしているからだ。そのかわり、三日に一度、神殿を訪れるという約束をした。しかし最近では、神殿への行きしぶりを見せている。
 そのうち仮病を使い出して行かなくなるのではと、キンバリーもサディアスもそう思い始めていた。そう思えるくらいのアイニスの態度なのだ。

「これはサディアス様。お待たせしまして、申し訳ありません」

 サディアスが神殿に来たのは、アイニスのこともあるが、ラティアーナに会いたいがためだった。その気持ちはキンバリーもアイニスも同じで、彼らももう一度ラティアーナと会い、話をすることを望んでいる。

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