だから聖女はいなくなった
『いえ、どうもしないのですが。ただ、歌が聞こえてきたので』
『歌?』

 まるで心あたりがないとでもいうかのように首を傾ける姿は、実年齢よりも幼く見えた。

『あ』

 そう言葉を漏らした彼女の顔は、みるみるうちに赤くなる。

『ごめんなさい』

 恥ずかしさのあまり、ラティアーナはそう言ったのだろう。

『いや。素敵な歌でした。曲名を聞いても?』
『お褒めいただきありがとうございます。わたくしの故郷に伝わる子守歌のようなものです』

 俯きながら答えるラティアーナともっと言葉を交わしたい。
 心の中のサディアスが叫んでいる。ここなら他に誰もいない。

『あの』

 サディアスは少しだけ声を張り上げた。

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