だから聖女はいなくなった
 本を読んで――。
 一緒にお菓子を作ろう――。
 編み物を教えて――。
 追いかけっこをしようよ――。

 それぞれの子どもたちが、それぞれラティアーナを誘う。一人しかいないラティアーナはそれらを同時にこなすことなどできない。

『ちょっと待っていてね。順番よ』

 彼女がそう言うと、子どもたちも素直に言うことをきく。

 ラティアーナが本を読む。子どもたちは黙ってそれを聞いているが、本に書かれている字を覚えようとする。そうするとラティアーナは、石盤(スレート)に真似をして字を書いてみましょうと言う。

 子どもたちはラティアーナの言う通りに、石盤に字を書き始める。
 そうやって字の練習をし始めた子どもたちに「また、後で見にくるわね」と言葉を残して、厨房へと移動する。

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