致し方ないので、上司お持ち帰りしました
秋月さんに対する冷たい目が脳裏に残っていて、目の前のふにゃっとした彼とのギャップに口角が上がってしまう。
私の前だけで見せるプライベートの真白さんが見られることが嬉しいんだ。
周りのみんなは秋月さんの味方をしていたのに、迷うことなく私の味方をしてくれたことも本当に嬉しかった。秋月さんの棘のある言葉に踏み荒らされた心は、真白さんのおかげて治癒できたような気がする。
「真白さん、ありがとうございました。……味方をしてくれて」
「当然でしょ? 彼女なんだから」
悪戯に笑う真白さんに心が惑わされてしまう。
そんなこと言うなんてずるい。童貞のくせに。
「ふりですけどね! 偽物の彼女!」
照れ隠しで放った声が必要以上に強い語尾になってしまった。モテる女子ならどんな対応をするのだろうか。私ってかわいくない。自分のことながら痛切にそう感じて嫌になる。
「俺、誰かを好きって初めて言ったかも」
「え! そうなんですか? 貴重な『初すき』を、私なんかに使ってもらって申し訳ないです。まあ、嘘のですけど」
「泉さんでよかったよ。好きって言葉は、口にすると嘘でもドキドキするもんだね。心臓が大きく鳴りっぱなし! 秋月さん、疑ってくるから焦ったー。ちゃんと彼氏になってた?」
「……はい」
思わずドキッとしてしまった。とは言えなかった。
彼の言葉1つ1つに簡単に胸が高鳴ってしまう。
恋愛経験は私の方が上なのに、なんでこんなに心が惑わされてしまうのだろう。
彼は計算ではなく、天然で言っているから余計にたちが悪い。
「今日は時間をずらさずに堂々と一緒に帰ろうか」
「一緒に、ですか?」
「もう公認だからね」
「公認って……」
「男の一人暮らしには足りないものが多すぎるから。必要なものを買って帰ろう」
真白さんは言い残すと、爽やかに去っていった。私は胸の高鳴りがなかなか収まってはくれず、その場で胸を押さえて落ち着くのをしばらく待っていた。