敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「そうですよ。でも、ついさっきまでこの格好で荷ほどきしていましたけどね」

「未希らしいな」

 ふっと微笑まれ、私はもうなにも言えなくなった。ゆっくりと車が動き出し、わざとらしく窓の外に視線を遣る。

 しばらくして車が停まったのは、大通りから外れたところにある、立派な一軒家だった。緑豊かな広い庭と貫禄のある昔ながらの建物は、一見するとお店には思えない。しかし隼人さんについて玄関に向かうと、小さな木の看板がある。

 中に入ると、木を基調としたインテリアは温もりと歴史を感じさせ、仕切りを取り除いた広々とした空間には、縁側から太陽の光が入っていた。シャンデリアや洋花などヨーロッパテイストも組み合わさりレトロな雰囲気を醸し出している。

「素敵」

 室内をまじまじと見つめ、感嘆の声を漏らす。

「気に入ったか?」

「はい。すごく落ち着きますね。なんだか遠くに来たみたいです」

 隼人さんの問いかけに笑顔で答える。

「それはよかった」

 彼の柔らかい表情にドキッとする。そしてすぐに我に返った。あくまでもスケジュールの都合上、こうして外で食事を一緒にするだけで深い意味はない。これも仕事なんだからはしゃいでどうするのか。

 続いて奥の個室に案内され、着席すると間を置かずに料理が運ばれてきた。

 蓮根まんじゅうにぶりのごまだれ漬け、春菊の白和えがひとつの皿に綺麗に盛りつけられている。すぐに箸をつけずに、仕事の参考にするためにも彩りや配置などをつい確認してしまう。
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