敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「ですから、ウィンター社と交渉した際に先方から提示された条件とすり合わせ、原価と材質の安全性との関係をまとめたものがこちらです」

 聞き覚えのある声に私は硬直する。今、皆の前でスクリーンに映し出されたデータを元プレゼンを行っているのは、第一営業部に所属する橋本恵さんだった。

 そういえば彼女がここで発表すると立候補していたのを思い出す。私の背中にどっと嫌な汗が噴き出した。

「未希さん?」

「あ、大丈夫です」

 心配する美奈子さんに小声で話す。プレゼンは終盤だったのか、ややあって会場は拍手と共に明るくなり、今から交流会が行われる旨のアナウンスが流れた。

 会場は広いからきっと会うことはないはずだ。そう思って美奈子さんについていく。

「美奈子さん」

 美奈子さんに声をかけてきたのは、年配のタキシードを着た男性だ。その顔にピンとくる。

「あら。大澤(おおさわ)社長、お久しぶりです」

「今日、淳史(あつし)さんは?」

 淳史さんは隼人さんのお父さま、つまりシャッツィの前社長だ。すかさず前社長の名前を口にしたところを見ると、親しいのかもしれない。彼は幸洋堂(こうようどう)の大澤社長だ。

「残念ながら欠席なんです。その代わり、娘を連れてきました」

「娘さん?」

 不思議そうな顔をする大澤社長に、美奈子さんは私の肩に手を置いて再び彼を見た。
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