振り返って、接吻

それから淡々と仕事を片づけて、午前中は過ぎていった。千賀とふたりっきりの副社長室は無菌室のように、誰にも傷つけられないし傷つけることもない。

仕事をするのは好きだから、この部屋に閉じ込められるのも苦ではないし。あとは、マッサージチェアを置けば言うことなしだ。ていうか、置こうかな。もうこの際、自腹でもいいし。


そしていつのまにか午後になり、誕生日プレゼントを渡したいという千賀を連れて社長室を訪れた。

婚姻届けを渡したまま逃げてしまったので、内心ははらはらしていたけどなんとか堪えて。


「失礼しま、」

「ハニー!!!!」

「あ、失礼しました」

「帰らないでよ!わたしの旦那様!」


重厚な扉を開けて部屋に入ると、思いっきり、勢いよく抱き着かれた。犬かと思ったら宇田だった。

その抱き着き方は、こう、エロさみたいなものが一切なくて、ペットがぎゅんっと飛びついてくるまさにそれだ。俺よりもだいぶ小柄なので、俺の首に巻きついてるみたい。

可愛くないと言ったら嘘になるけども、さすがに喜ぶのもちがうので、彼女をやんわりと引き剥がして「なんなの」と訊いた。

すると宇田は、俺の首から離れたものの、今度は腰に抱きついて見上げてきた。そして、にこにこしながら話し始める。



「婚姻届!書いた!」

「あ、そ」

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