振り返って、接吻


そうして振り返ると。

 
「あ、おはよーございます副社長」

「ちっ」


ねえ、なんか悪いことしたの俺。


「社長に会えたのに舌打ちって、ひどくない?」

「ひどいですね、減給してやりましょう」


どうして、こんな爽やかな朝いちばんに、社長とその秘書に挟み撃ちされなきゃなんないの。

この数年でぐんぐん功績を伸ばして大きくなった広い社内。朝から遭遇したらしにたくなる2トップに同時に絡まれるって、相当治安悪いんじゃないの。もはや交通事故だ。は?


「おはよう!茅根」

「おはようございます社長、今朝もお綺麗ですねえ」

「あらやだこの子ったら!口が達者なんだから!」

「あはは、社長照れてる照れてる」


本気で胃がムカムカしてきた俺を挟んで繰り広げられる、胃もたれするような会話たち。もう、なんなのまじで。すぐそこなんだから、社長室でやれよ。


ていうか、お願いだから誰かこの女のどこが“お綺麗”なのか教えて。“お嫌い”の最高潮に達してるんだけど。ねえ。


明らかに逃げ道と気力を失い立往生した俺の肩に、社長は馴れ馴れしく両手をぽんと置いてきやがった。

それを間髪入れずに振り落とす。


「由鶴、機嫌悪いね?」

「オマエたちのせいなんだけど、気づかないかな」

「えーごめん気付かなかったなあ」


社長、もとい宇田は俺の嫌味にもすっかり慣れきってるようで、それがまた気持ち悪い。あまりにも長い付き合いなので、腹立たしいとかを通り越して、もはや気持ち悪さと気色悪さしかない。

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