不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

極道の妻



 この日形だけの挙式を挙げ、私は姓を吉野(よしの)とし、極道・桜花組(おうかぐみ)次期組長の妻となった。

 そう、形だけ。これは両家の利害関係による政略結婚。

 愛のない結婚だけど、それでもよかった。
 愛されなくても、あなたの妻になれてよかった。


* * *


 今から3ヶ月程前、家族全員がリビングに集まっていた。呼び出した張本人である父は、青い顔をして冷や汗をかいている。


「実は、会社が潰れるかもしれなかったんだ」


 父の表情から穏やかな話ではないと思っていたが、予想を超えていた。
 それにしても過去形なのが気になる。

 父は中堅のメーカー企業の社長をしている。BtoBの会社のため、世間ではそんなに知られた社名ではないものの、取引先からは信頼を得ていた。

 しかし信頼していた社員の一人が、ライバル企業のスパイだったことが発覚。
 創業以来ずっと強みにしていた独自の技術を盗まれ、あろうことか先に商品化されてしまった。
 この問題が発覚する前にスパイだった社員は退職しており、元の企業に戻ったらしい。


「その上うちが技術を盗もうとしていたとあらぬ風評を流され、次々に取引がなくなり、このままやっていくのが困難で……」


 父が頭を抱えているのに、私は「企業スパイなんてドラマみたいだわ」とどこか他人事のように捉えていた。


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