社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

松下side

松下side



 定例会議を終え、自販機の前に立つと隣から手が伸びてきた。

「お疲れ様です。松下部長」

 今回から会議のメンバーとなった朝霧がカフェオレを差し出す。

「甘い物がお好きなんですって? 妻から聞いてます」

「甘い物は好きだが、奢って貰うのは嫌いだね」

「そう言わずにどうぞ。部長には感謝しているんですよ」

 営業畑で育った精神はちっとやそっとの嫌味など効きやしない。人懐っこい笑顔を向けてくる。
 仕方なく缶を受け取り、側のベンチへ腰掛けた。会議の後はこうして休憩するのがルーティンだ。

「ご一緒しても?」

 ブラックコーヒーを片手に朝霧は尋ねる。

「……どうぞ」

「じゃあ、失礼します」

「そんな畏まらなくていいよ。立場は同じなんだ、朝霧部長」

「いえ、俺がこうして居られるのはあなたという前例があったから」

 一人分スペースを開け、腰掛ける。絶妙な距離感。もう少し近ければ追っ払ったし、遠かったなら会話に応じなかったのに。
 朝霧は勘の良い男だ。僕など引き合いに出さずとも出世は約束されていた。

「過ぎた謙遜は嫌味になるぞ。気をつけるんだな。やたら下手に出て舐められたら始末が悪い。年長者相手だろうと締めるところはきっちり締めろ」

 アドバイスというより釘を刺す意味合いが強い。
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