スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 一瞬の気の抜けた掛け合いに、麗さんが堪らずこちらへ詰め寄ってきた。貴博さんが庇うように間に立ってくれたが、それでも彼女の視線はまっすぐ私に突き刺さる。
「この男は、私と同じベッドで寝たことまで認めてるのよ。それで何もなかったって主張が通るわけないでしょう!」
「でも、貴博さんなので」
 その気になれば引く手あまたであろうイケメン御曹司のくせに、恋愛下手で独自の理論武装からしかプロポーズに辿り着けなかった男である。
「この人が酔った勢いくらいで、女の人とどうこうなるわけないじゃないですか」
 麗さんの妊娠発言に違和感しか持てなかった私としては、彼が違うというなら違うのだろうと納得するしかない。そしてそれを裏付けるように、文乃さんが「確かに」なんて呟いたのだった。
 結果、麗さんは完全に毒気を抜かれてしまった。
「……分かったわよ。この子が生まれてから養育費をふんだくりにくるから覚えてなさい!」
 その言葉を捨て台詞にして、彼女は席を立った。先程貴博さんが現れた縁側の方へ、踵を返して去っていく。
「だから俺の子供じゃないっての」
 貴博さんがきっぱり否定して、これにて一件落着みたいな顔をする。
 ……本当に?
「ちょ、ちょっと待ってください」
 私はとっさに、麗さんの背中を追いかけていた。
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