狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。


 そうして子狐に気を取られていたからだろう。
 小道の曲がり角をまがったところで、さぎりは誰かにぶつかり、強かに額を打ちつけてしまった。

「痛た……す、すみません」

 そう言って顔を上げると、そこに居たのは官憲の服装をした男だった。
 黒髪に、茶色の瞳。この国の大半が持つその色からは、男がどの家の者なのか読み取ることができない。しかし、その物色するような目には蔑みと敵意が含まれており、さぎりは思わず一歩身を引く。

「狐連れの、火傷痕の女……」

 呟く声は冷ややかで、さぎりは恐ろしくなって、更に一歩身を引く。
 しかし、男は無遠慮にさぎりの手を掴み、躊躇わずに力を込めた。

「痛っ! は、離してください!」
「お前を呼んでいる方がいる。来てもらおう」
「えっ。困ります、そんな……痛い!」

 さぎりの手を捻り上げようとする男に、彼女が悲鳴を上げると、子狐が「わん!」と吠えた。
 
 見る間に男の手が燃え上がり、男は悲鳴を上げる。
 手を振り払うと纏わり付く狐火は消えたけれども、新たな火がさぎりと子狐を庇うように浮かび上がり、男はサッと距離をとった。
 そして、男の悲鳴を聞きつけたのか、男の背後の方からわらわらと官憲達が現れて、さぎりと子狐を取り囲み始めた。
 青ざめるさぎりの肩で、子狐は怯むことなく、さぎりと自分の周りに狐火を浮かび上がらせる。

「やはりこいつだ! この、狐が!」
「火を消せ、火を!」
「水で消えないぞ! 異能の力だ、石を持て!」

 男達は真っ白な香り袋を懐から取り出した。

(あれは……!)


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