特効薬と副作用
 待ち合わせ時刻の十五分前に到着したが、既に彼の姿があった。

「すみません、お待たせして……」
「ああ、いえ。俺も今来たとこなんで」

 新垣(あらがき)(のぞみ)は、待ち合わせたF駅の改札前で、スーツ姿の吉沢(よしざわ)(とおる)とぎこちない挨拶を交わした。彼と会うのは二度目だった。
 友人の紹介で知り合った徹は、製薬会社に勤める二十八歳で、もちろん独身だ。
 見上げるほどの長身に、スーツが似合うお洒落なベリーショートの髪と爽やかな笑顔が印象的だった。別れ際に「また誘ってもいいかな?」と尋ねる徹に、はにかみながら頷いたのは、ちょうど一週間前のことだ。

 レストランに到着して席に着くやいなや、希はさりげなくバッグの中のポーチから薬のPTPシートを取り出し一錠押し出すと、グラスに注がれたミネラルウォーターで流し込んだ。その一連の動作、僅か三秒。普段なら誰にも気付かれないのだが……。 

「大丈夫? 体調悪かった?」

 徹が様子を伺うように、希の顔を覗き込んだ。

「あ、バレちゃいましたか? なんだか前回よりも緊張しちゃって」
「いや、それは俺もだけど」
「ほんとですか? 全然そんなふうに見えないですけど……。私、緊張するとすぐにお腹痛くなっちゃうタイプなんですよね。でも、お薬飲んだらすぐに治まるんで大丈夫です」

 希がそう言うと、徹は更に心配そうな表情を向けた。

「この前会った時もそうだったよね?」
「あ、やだ。それもバレてたんですね。因みに、この前は頭痛薬でした」

 希は気まずさで苦笑した。

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