孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 父はさっさとこの場を切り上げたいらしい。でも父がそう言ったのなら、始めるしかない。

「待タレヨ……!」

 私は自分の限界くらい高い声を出した。喉がつぶれたケロケロ声が絞り出されて、父はぎょっとした顔をした。
 正直めちゃくちゃ喉が痛いが、父の表情を見ると手応えを感じる。

「我ハ預言者ナリ」

 預言者の口調がわからないので謎のキャラ設定になってしまったが、父親の顔色はますます悪くなったのでイケそうだ。


「マモナク暗黒期ガクル……白の花嫁ハ、コノ娘ダァ……!」

「なんだって!?」

 父が席を立ち、ガタンと大きな音がして椅子が倒れた。まわりの目がこちらを向いているのを感じる。
 私は白目をむいて、ガクッと燃え尽きたように力を抜いた。そして床に崩れ落ちる。

「アイノ!」

 父がすぐに駆け寄ってきて私を抱き上げる。まわりから悲鳴が聞こえて「女の子が倒れた?」とざわざわしている。
 私は目を開けてきょとんとした顔を作ると「……あれ?どうしたのですか、お父様」と言った。

 これで前座は完成だ。あとはお告げがきたと自演するだけだ。

 父の手がガタガタ震えているが、薄情な父親ならば私を魔王に捧げるのは朝飯前だろう。


 なんたって魔王よりも凶悪な親子に私を預けていたのだから。


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