孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「違う」
「どちらにせよ暗黒期がきたらわかることよ」
「でも……軍基地って……」

 三ヶ月前から建設され始めた基地。暗黒期よりも前だ。
 私の立候補は、国に準備をさせる時間を作ってしまったのではないだろうか。アルト様を死に追いやるための準備を。

「アイノのせいじゃないわよ。あなたが来なければ、花嫁行列までの間に魔物が人間を襲って火種を作ったかもしれないし。花嫁行列でまた襲ってきたかもしれないわ」

 だとしても、立候補するなら暗黒期が訪れてからでもよかったのではないか。せめて二年生になってからでも。
 あの生活を早く抜け出したくて、早くアルト様に会いたくて。私以外の人間が花嫁になるの嫌で。でもこんな展開になるのなら。
 私の選択が――

「アイノ」

 アルト様の優しくて低い声が大きく響いた。名前を呼んでくれてるだけなのに、私を肯定するような声だ。

「本当にアイノのせいじゃないわよ」

 ショコラも微笑んでくれる。
 それでも、私は。

 その時、一匹の小さな鳥――いやよく見ると手のひらサイズの魔物だ――が部屋の中に入ってきてショコラの肩に止まった。魔物は口に封筒を咥えていてショコラはそれを受け取った。

「ありがとう。はあ、イルマル王国からの書簡よ。見たくないわね」

 白い封筒に押されている刻印を見て、ショコラは顔をしかめた。ショコラは小さな手で封筒を破り中に入っている紙を取り出した。
 げんなりとした顔を作っていたショコラだが、中の文字を読んだ途端に表情がなくなる。そして微動だにもせずじっと紙を見つめている。

「ショコラ、どうした。何が書いてあった」

 アルト様が声を掛けるとようやくショコラはこちらを向いた。

「白の花嫁を騙るリイラ・カタイストを処刑すると……書かれているわ」
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