孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「それはそうなんですが……」

 同じ言葉を繰り返してしまった。アルト様は目を細めると私の髪の毛を撫で始める。

「私のせいでリイラが大変な目にあっていると思うと」
「お前のせいではない。国の暴挙だ。もとを正せば魔人である俺のせいだ」
「そんなわけないです」
「ではお前のせいなわけもない」

 アルト様の大きな手が私の頬を包み込んだ。親指が私の唇をふにふにと遊ぶ。

「アイノ、お前は何が不安なのだ」
「アルト様やショコラ、リイラが危険な目に遭うことです。私がここにやってくる時期がもう少し遅ければ違ったかもしれません」
「しかしお前と四季を過ごしたからこそ愛し合えている」
「あ、あい……」

 恥ずかしい単語をさらりと言われた。照れた私の反応にアルト様は満足したように微笑んだ。

「お前が来たのは必然だ」

 私を甘やかさす声と、手のひらと、瞳だ。全てを許すように優しく包みこんでもらえる。

「気にしなくていい」

 そう言って何度も私の頬を撫でるから、されるがままになっているとアルト様の瞳は凪いだ青色の瞳に戻った。
 何度夜を迎えても、青色の瞳に戻ったばかりのアルト様は気恥ずかしそうに視線をそらす。それから私を膝からおろして隣に座らせた。

「……アイノ」
「はい」
「先ほど俺がいったことは本心だ」

 視線をそらしたままアルト様はぽつりと言った。

「お前は俺を案じてくれているが、俺は自分のことはどうでもいい。いつか魔人は途絶え。魔物さえ守られればそれでよい。、万一暗黒期が来るのなら潔く死にたかった」

「だ、だめですよ! アルト様王都に行っては――」
「話を最後まで聞け」
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