孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「王子は、魔人は悪ではないと思っていると言っていた。ここにリイラを送ることに一番賛成しているのも彼。私が見た限り真っすぐな子に見えたけど、未来の王の割にあまりにも魔人に対して好意的すぎる。演技だとしたら恐ろしいわね。だとしたら、そういう人こそ王にふさわしいのかもしれないけど」

 リイラは信頼できる。でも攻略対象はどうなんだろうか。私は彼らとほとんど話をしたこともない。
 ゲームのままなのだとしたら、ショコラの言う通り真っすぐな人だった記憶はある。彼らは皆リイラを愛して、リイラのために命をかけられる人だった。

 だけど――。彼らと魔王アルトが協力体制を取るルートなんて一つもなかった。自分のルートであれば真っ向から敵対するし、アルトルートでもリイラ奪還のために城を襲って殺し合う姿しか見たことがない。リイラへの気持ちを疑うつもりはないけれど、彼らは魔人と対立するポジションなのではないかという不安が沸き上がってくる。

 彼らに悪意があるのならば。魔人を滅ぼそうと考えているのならば。
 招いた瞬間にアルト様の命はなくなってしまう。この館がある三区は魔物もいない。

 しばらく沈黙がその場を包み、アルト様ははっきりと言った。

「わかった。彼らを招こう。――転移先を城のあの部屋にしておいてくれるか」
「オーケー、転移の準備をしてくるわ。あ、そうそう。カタイスト家も保護するから城を掃除しておいてくれる? 暫くの間大所帯になりそうだからあっちに住んでもらうことにするわ」

 私が戸惑っている間にショコラは二階に駆けあがっていってしまった。

「アルト様は信じるのですか? 王子もいるんですよ」
「正解はわからん。しかし話をしてみようと思った」
「でも襲われたら……」

「向こうはこちらの屋敷の様子など知らない。魔の森には魔物がいると恐れられている。そこに数名で来ると決断したのなら、迎えるべきだろう」

 穏やかな口調で言うと私の手を握った。「城の方へ向かおうか」
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