孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

 午後、アルト様が魔法を教える様子を見ながら墓掃除をすることにした。城の前の庭で行われているレッスンを庭隅の墓の陰からこっそり見ている。
 想いが通じあってからアルト様はいつも私の後ろをついてきて見守ってくれていたというのになんだか寂しい。そして私についてきてくれていた理由がわかった気がする。
 それにしても、私はアルト様に教えてもらうまでに時間がかかったのになんだかずるい。ずるいと思うけど、全然嫌じゃないのだ。嬉しくて仕方ない。

 今日も夜みたいに暗い中、魔法の光だけがよく見える。
 おおきな炎が上がってアルト様の顔が照らされた。口は一文字に結ばれているし、眉間にシワは寄っているけれど。機嫌は絶対に悪くない。

「アイノ、ここにいたの」
「うん。墓掃除兼見学」

 リイラは私の隣にしゃがみこんだ。こうやって茂みに隠れこむと学園生活中に悪役令嬢サンドラにいじめられた日々を思い出す。こうして私たちは隠れていろんな話をした。

「私ね、アイノが魔王の花嫁になったって聞いて心臓が壊れるかと思った」
「心配かけてごめん」
「魔人ってどんなものか知らなかったから」
「でも実際会ってみたらすごくいい人でしょ、それにかっこいいのよアルト様は。そうだ、リイラはマティアス様とどう?」
「えっ!? ……でも私は身分が違うから」
「あの人自分のこと王子じゃなくて反逆者って言ってたじゃない。マティアス様が平民ので考えられるようになったのは絶対にリイラの影響だよ」

「マティアスはすごいの、本当に」

 そう言ってリイラは黙った。いつもはつらつとしている彼女が黙り込み頬を染めるのが暗闇でもわかる。彼女の恋が成就したのなら、きっと奇跡だって起こせる。リイラはヒロインなのだから。

「アイノとこうやってまた話せて嬉しい」
「私も。まさかこんな場所で喋るとは思わなかったけどね」

 私たちは顔を見合わせて笑った。
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