孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「はい。罪は償うつもりです。ですが、リイラ・カタイストは解放していただけませんか? 彼女こそ本当の『白の花嫁』なのですから罪人ではありません」

 そう言うとリイラの身代わりになっていた少女は解放され、彼女の腕を拘束していた魔法士が私の腕を掴んだ。

「では、アイノ・プリンシラの処刑を行う。言い残したことはあるか?」宰相が私の前に立って尋ねた。
「いえ。地獄からプリンシラ家の不幸を祈っています」
「そ、そうか」

 そうして私は魔法士に両腕を引きずられ、バルコニーから国民に顔を出す。

「……処刑は後ほど行う。先に魔の森について国民に説明をしよう」

 大臣たちはそう相談している。アルト様が出てくるまでは私は餌なのだ。そう簡単に殺すわけにはいかない。私は捕らえられたまま、外からよく見える場所に立たされた。だから大声をあげた。

「お伽話の世界だと思っていた魔の森は本当にありました! なかなか楽しい暮らしでしたよ。魔人は悪い人ではないです。私はそこで半年ほど暮らしていましたから! 白の花嫁でもないのに! 虐げられた暮らしより何千倍も幸せな日々を送っていました! 死ぬ前にそれだけ伝えておきます!」

 私の大声に「魔人はまだこないのか!」と宰相が小さく叫んでいる。構わず私は続ける。べつに今の私の叫びですぐに国民の考えが変わることはない。でもこれから王子が作っていく未来のためのわずかな種まきだ。

「私のことはいつ処刑していただいてもかまいません。――でも一つ聞いてください!前回の花嫁行列から二十年の時が過ぎましたが、誰も魔物に襲われていなかったのはなぜだかわかりますか!? 魔人が魔物を制御し続けてくれているからですよ! ではどうして今回子供が襲われたかわかりますか? 国の――」

 叫ぶ私の口は抑えられた。私の顔を掴んで無理やり手のひらを押し付けてくるのは――血走った目をした父だった。「魔女め!」と叫びながら。ああ娘が最期だというのにこの男は。
 私はフロータ・ルイロー、と抑えられた口の中で小さく唱える。
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