孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

 そうそう、私たちに直接関わる魔族について。
 魔人や魔物への潜在的な恐怖はなかなか拭われるものではないと思っている。だからすぐに安心安全です!と主張するつもりはない。ただでさえまだ国は落ち着いていないしね。
 だけど、何十年かけてでも徐々に誤解をといていきたいとマティアス王子は約束してくれた。

 そしてアルト様にもお仕事ができました! 魔物の研究のお手伝いのために時々王都にも出向いている。魔物が危険を孕む生き物なのは間違いではなく、だけど繁殖期の狂暴性を抑えられれば魔の森に閉じこめなくても人間と共生する未来もあるかもしれない。そんなことを信じて研究を行っているのだ。
 アルト様が孤独に二十年続けていた研究を発展させて、魔物の未来に繋げていく。

 アルト様ははたから見れば、人間にしか見えない。
 だから王都に住んではどうか?とマティアス様から誘いもあった。
 私たちの功労を称えて王都での暮らしを保証する。と言ってしまうところは、まだまだマティアス様の青い若い部分だ。
 金銀宝石、それから王都での優雅な暮らしが、皆の幸せなわけではない。
 私たちは申し出を丁重にお断りして、魔の森で今まで通りの生活を続けている。まだ魔物の制御もしないといけないしね。

 だけど、こうして結婚式に出ることができるくらい自由になった。
 買い出しだって好きな時に好きな場所に行ってもいい。これからアルト様としたいことはいっぱいある。

 隣にいる民はアルト様が魔人だと気づいていないだろう。実際はそんなものだ。この広場にいる人を、平民、貴族、魔人と一目で見分けることは難しい。私たちに大きな違いなんて本当はないんだ。

 雲一つない爽やかな青空から、色とりどりの花びらが舞い落ちる。
「きれいですね」
 乙女ゲーム・フォスファンタジアのマティアスエンドも、こんな風に結婚式のイベントだった気がする。ハッピーエンド、大団円を迎えたのだ!
 でも唯一違うのは、私の隣にいるアルト様が生きていること。彼は殺されることも、何も奪われることもなく。こうしてここに立っていてくれる。
 ……私が掴みとったんだ、この幸せは。胸がぎゅっと苦しくなって涙にかわる。隣を見上げるとアルト様は穏やかなまなざしをこちらに向けてくれるから私は涙に気づかれないように笑顔を返した。
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