孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 ショコラが苦笑した、ように見えた。わんちゃんだというのになぜか表情がよくわかる。二十年の埃を吸ってしまった私は思いっきりむせる。

「大丈夫?」

「う、うん……」

 目も痒くなるので薄目でダイニングを見てみたけれど、十人ほど座れそうな長机と椅子がちらりと見えた。

「奥にはキッチンもあるけど。そうね、見なくてもいいわね」

 涙目で咳き込む私を見ながら、ショコラは扉を閉めた。彼女は魔法を使えるのかもしれない。この小さなお手々で扉を閉められるとは思わなかった。

「こっちはバスルームよ」

 廊下の突き当りまで行くと「ここは毎日使ってるからきれいよ。アルトは綺麗好きだし」とバスルームを開いてくれた。
 かわいい猫足のバスタブなのに、ホラー映画でゾンビが出てきそうな雰囲気しかない。もしくは血に染まったお湯とか。屋敷の一番奥まったところにあるから今まで見た中で一番暗かった。

「そして二階に続く階段がこちら」

 短いあんよなのに軽やかに階段を登っていくから、慌てて後をついていった。長い廊下と同じような扉が六つ。扉を前足で示しながらショコラは説明してくれた。

「ここが書斎。そして奥がアルトの部屋。きっと怒るからアルトの部屋は入らないでね。それでアルトの隣の部屋が私の部屋。あとは全部空き部屋なんだけど」

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