孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「呪文を暗記しても意味はない。簡単な呪文、それからイメージ。こちらの方が都合がいいだろう」

「そうですね。学園でもそうやって教えたらいいのに。呪文をきっちり覚えることが大切だと思っていました」

 外国語みたいだ。前世日本で海外の人に話しかけられた時、文法を思い出そうとして何も話せなくなった私の隣で、友達が単語だけで会話を成立させていたなあ。
 それと同じかもしれない。言葉をきちんと正確に並べるよりも、単語と身振り手振りと伝えたい気持ちがあればなんとかなるものだ。

「……わざと難解にしているのかもしれない」

「わざと?」

「おい、また炎が途切れたぞ」

「あ、すみません」

「余計な事を考えるな」

 アルト様に睨まれてもう一度呪文を唱えた。火を当て続けると段々いい香りになってきた。皮もいい感じに焦げ目がついてきてお腹がすいてくる。

「はあ、いい匂いする。特別講座って魚を焼くことだったのね」

 可憐な声と足元に柔らかい毛の感触を感じる。きっとショコラが私の足元に来ている。

「スープとサラダはもう仕込んであるから、魚を焼いてしまえば夕ご飯はいつでも食べられるわよ」

「もう我慢できないと思ってたところ。じゃあ私はスープを温めておくわね」

「ありがとう」

 炎の下を潜り抜けてショコラはコンロに向かっていく。
 二人と一匹で狭いけれど、夕食をみんなで完成させていく。なんだかすごく懐かしい光景を思い出して、炎の熱さが胸にまでじんわり染み込んだ。
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