孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜


 森は以前と様子が違って見えた。黒い結界が張ってあった時はホラー映画の森だったけど、お日様があたる今はごくごく普通の森になっている。
 アルト様はスタスタと迷うことなく歩いていて、私も速歩きでアルト様の隣に並ぶ。

「なんだか魔物がいる気がしませんね」

 森は静かなまま、足音一つ影一つさえ見当たらない。

「様子を伺っているんだろう」
「魔王様の花嫁の登場にドキドキしているんでしょうか」
「お前はいつも楽しそうだな」
「おかげさまで」
「前から気になっていたんだが、魔王というのは? 俺のことか?」

 アルト様は思い出したように質問した。

「はい。アルト様のことです」
「たいそうな呼び方だな」

 チチチ、と鳥が鳴く音が聞こえたかと思うと何かがアルト様の肩に止まった。小さな鳥――かと思ったけれど、コウモリに近い気がする。コウモリとの大きな違いは、顔の真ん中に大きな目玉がついていること。一つ目コウモリ、the魔物って感じがする。

「小さいですね」
「ああ」

 次に私たちの前に颯爽と現れたのは一見普通の狼だった。白い毛並みが美しい。利口そうな顔がアルト様を見つめている。

「これはウッコルフ」
「普通の大型狼に見えますね」
「そうだ。彼らは口から稲妻を吐く。ただそれだけのことだ」
「怖く見えませんね」


 魔物といえば、見るからに気持ち悪いものとか、人間絶対コロス! と襲ってくるものだと思っていた。
 でも今アルト様の周りに集まってきているのは、パッと見は動物に見える子たちばかりなのだ。おどろおどろしい雰囲気などなくモフモフ大集合のほんわか場面に見える。
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