孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「国に気づかれたら嫌だから念のためよ。私のことは魔人だとは思わないだろうけど、魔力を感知されても困るから。今から転移する場所も王都じゃないから安心して。――ついたわよ」

 簡単に説明してくれたショコラは部屋から出ようとする。

「待って。もう転移完了したの?」
「そうよ」

 相変わらずショコラの魔法はすごい。何も呪文も唱えていないし、部屋に魔法陣的なものも見当たらない。それなのにものの数秒で目的地に移動できたらしい。
 転移魔法って三年生でも取得できる人はわずかな、上級魔法なのに。

「行くわよ」

 もう一度ショコラを見ると彼女は料理を食べるときと同じく人間の姿になっていた。
 そうそう、変身魔法だってかなり上級魔法なんだから。

 ショコラが扉を開けると、そこは廊下だった。どこにでもある屋敷の廊下だ。

「ここは?」
「ここはアルトの母の実家なの。一階は雑貨屋で、アルトの母の弟が継いでいて……今はえーっと、アルトの母の弟の息子の息子がやっているのよ」
「だからここに転移魔法を」
「そう。買い出しも協力してくれているしね。この街は王都から一時間は離れているし、貴族もいないから。気づかれることもないわ」

 簡単に説明するとショコラは慣れた様子で廊下を進み、階段を降りていく。
 階段を降りた先は、雑貨屋になっていた。二階が居住スペースで、一階がお店なんだ。
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