財閥御曹司とお見合い偽装結婚。
黒瀬の娘


「……今日もありがとうございました」
「今日もありがとう。とても良い席だったわ」


 最後のお客様をお見送りした私は、深くお辞儀をしてクルッと家の門を潜ると「お疲れ様」と声をかけられた。


「鳳仙先生こそお疲れ様です」


 この人は、煎茶道黒瀬流である分家・黒瀬家の次期当主である鳳仙(ほうせん)先生だ。



「もう、そんな呼び方しなくてもいいだろ? 采羽」

「そうだけど」

「もう、お兄ちゃんでいいだろう」


 そう言って声を出して笑ったのは、鳳仙先生――もとい、黒瀬(くろせ)優羽斗(ゆうと)。私の二番目の兄だ。

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