魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
7.休日のあれこれ【閑話休題】
「はあ……お尻がちょっと痛いわ……」
そう座り心地が良いわけではない飛竜に2日も連続で乗っていたせいだ。ベッドにうつ伏せで倒れるナターリエを見て、ユッテは「これは重症だ」と思う。
「腰を下ろす鞍が固いのよね……2人用の鞍なんて、そう使わないでしょうから、1人用よりくたびれていないし……」
「ヒース様にそう申し上げたらいかがでしょうか」
「ちょっとそれは……」
とナターリエはもごもごという。お尻が痛い。そう訴えることが恥ずかしいのだろうとユッテは思って
「では、わたしがお伝えして来ます」
「ええっ!? 待って、いいのよ、ユッテ」
「いえ、明日以降もお嬢様は飛竜にお乗りになるのですし、そのうちお尻が痛くてちゃんと座れず、落ちてしまわれるかもしれませんもの」
そう言うユッテの表情は本気だ。空の旅を嫌っている彼女の忠告はいささか重たいが、確かにそれはあると思う。
「ううー……いいわ。わたし、自分でお話してくるわ」
仕方がない、とナターリエは起き上がって、尻をさすりながら部屋を出た。
ヒースの執務室に訪れたナターリエは「ご相談があって」と声をかける。その声の調子にただならぬものを感じ、ヒースは目を瞬かせる。
「なんだ?」
「あのお……えっと……お、お尻が、その」
「お尻!?」
驚いて大きな声を出すヒース。
「は、はい」
「尻がどうした?」
辺境伯子息ともあろうものが「尻」とは。雑なその返しに、ナターリエは小さくなる。
「飛竜の鞍が硬くて、そのう、お尻がとても痛くてですね……」
「そういうことか。医者でも呼ぶか? 大丈夫か?」
医者。それは勘弁して欲しい。自分の尻を見せて「痛いんですが……」と尋ねるのは、いくらなんでも間抜けすぎると思うナターリエ。
「いえ、お医者様に見てもらうほどではないんですが、明日も明後日も、と毎日飛ぶのであれば、もう少し鞍をどうにかするか、ちょっと何か柔らかいものをと……」
「なるほど。それは確かに必要かもしれないな。わかった。ちょっと考えておく」
「ありがとうございます。必要であれば、お支払いもいたします」
ナターリエはそう言って頭を下げて礼をした。
「支払いは気にするな。本当に医者はいいのか?」
と、再びヒースが念には念を、という様子で聞いて来る。ヒースの脳内で、自分が尻を出して医者に見せている図が浮かんでいるのでは、と思って、ナターリエは赤くなった。
「だ、大丈夫です、まだ、そこまではなっていません……!」
「そうか。あまり痛すぎたら言ってくれ。いつでも医者を呼べるから」
「わかりました」
これは冗談抜きで本気で心配をしてくれているようだ……そうは思っても、いくらなんだって恥ずかしい。こほん、と咳ばらいを一つして、ナターリエは話題を変えた。
「それと、申し訳ないのですが、少し衣服を購入したくて」
「ああ、何が必要だ?」
「えっと、スカートではやはり飛竜には乗りづらいので、パンツを増やしたいなぁと」
ナターリエは魔獣鑑定士の実地試験の日に来ていた乗馬用の服で飛竜に乗っており、替えのものがなかった。思ったよりも飛竜に乗ることが多いので、もう一着だけでも、と思う。
「ああ、そうだな。気付かなかったが、ずっと外ではドレスではなかったな。動きやすそうで良いと思っていたが……」
「はい。ですが、あれが一張羅で」
恥ずかしそうに言うナターリエに、ヒースは笑った。
「うん、大丈夫だ。それじゃあ、明日にでも仕立て屋を呼ぼう。金はこっちもちでいい」
「ええっ? そんなことは……」
「仕事に必要な衣装だ。こちらで手配をするのが筋だろう?」
そうなのだろうか? 仕事というものをしたことがないナターリエは、彼の言葉が道理にかなっているのかどうかがわからない。だが、どう考えても自分は世話になりっぱなしだし、それはおかしい気がする。
「いえ、それじゃなくても、お食事などもいただいていますし……」
「食事は当然だ。こちらが依頼をして来てもらっているんだし」
「で、でも」
「いい」
そう言ってヒースに丸め込まれ、ナターリエは渋々
「わかりました。ありがとうございます」
と、頭を下げる。
そう座り心地が良いわけではない飛竜に2日も連続で乗っていたせいだ。ベッドにうつ伏せで倒れるナターリエを見て、ユッテは「これは重症だ」と思う。
「腰を下ろす鞍が固いのよね……2人用の鞍なんて、そう使わないでしょうから、1人用よりくたびれていないし……」
「ヒース様にそう申し上げたらいかがでしょうか」
「ちょっとそれは……」
とナターリエはもごもごという。お尻が痛い。そう訴えることが恥ずかしいのだろうとユッテは思って
「では、わたしがお伝えして来ます」
「ええっ!? 待って、いいのよ、ユッテ」
「いえ、明日以降もお嬢様は飛竜にお乗りになるのですし、そのうちお尻が痛くてちゃんと座れず、落ちてしまわれるかもしれませんもの」
そう言うユッテの表情は本気だ。空の旅を嫌っている彼女の忠告はいささか重たいが、確かにそれはあると思う。
「ううー……いいわ。わたし、自分でお話してくるわ」
仕方がない、とナターリエは起き上がって、尻をさすりながら部屋を出た。
ヒースの執務室に訪れたナターリエは「ご相談があって」と声をかける。その声の調子にただならぬものを感じ、ヒースは目を瞬かせる。
「なんだ?」
「あのお……えっと……お、お尻が、その」
「お尻!?」
驚いて大きな声を出すヒース。
「は、はい」
「尻がどうした?」
辺境伯子息ともあろうものが「尻」とは。雑なその返しに、ナターリエは小さくなる。
「飛竜の鞍が硬くて、そのう、お尻がとても痛くてですね……」
「そういうことか。医者でも呼ぶか? 大丈夫か?」
医者。それは勘弁して欲しい。自分の尻を見せて「痛いんですが……」と尋ねるのは、いくらなんでも間抜けすぎると思うナターリエ。
「いえ、お医者様に見てもらうほどではないんですが、明日も明後日も、と毎日飛ぶのであれば、もう少し鞍をどうにかするか、ちょっと何か柔らかいものをと……」
「なるほど。それは確かに必要かもしれないな。わかった。ちょっと考えておく」
「ありがとうございます。必要であれば、お支払いもいたします」
ナターリエはそう言って頭を下げて礼をした。
「支払いは気にするな。本当に医者はいいのか?」
と、再びヒースが念には念を、という様子で聞いて来る。ヒースの脳内で、自分が尻を出して医者に見せている図が浮かんでいるのでは、と思って、ナターリエは赤くなった。
「だ、大丈夫です、まだ、そこまではなっていません……!」
「そうか。あまり痛すぎたら言ってくれ。いつでも医者を呼べるから」
「わかりました」
これは冗談抜きで本気で心配をしてくれているようだ……そうは思っても、いくらなんだって恥ずかしい。こほん、と咳ばらいを一つして、ナターリエは話題を変えた。
「それと、申し訳ないのですが、少し衣服を購入したくて」
「ああ、何が必要だ?」
「えっと、スカートではやはり飛竜には乗りづらいので、パンツを増やしたいなぁと」
ナターリエは魔獣鑑定士の実地試験の日に来ていた乗馬用の服で飛竜に乗っており、替えのものがなかった。思ったよりも飛竜に乗ることが多いので、もう一着だけでも、と思う。
「ああ、そうだな。気付かなかったが、ずっと外ではドレスではなかったな。動きやすそうで良いと思っていたが……」
「はい。ですが、あれが一張羅で」
恥ずかしそうに言うナターリエに、ヒースは笑った。
「うん、大丈夫だ。それじゃあ、明日にでも仕立て屋を呼ぼう。金はこっちもちでいい」
「ええっ? そんなことは……」
「仕事に必要な衣装だ。こちらで手配をするのが筋だろう?」
そうなのだろうか? 仕事というものをしたことがないナターリエは、彼の言葉が道理にかなっているのかどうかがわからない。だが、どう考えても自分は世話になりっぱなしだし、それはおかしい気がする。
「いえ、それじゃなくても、お食事などもいただいていますし……」
「食事は当然だ。こちらが依頼をして来てもらっているんだし」
「で、でも」
「いい」
そう言ってヒースに丸め込まれ、ナターリエは渋々
「わかりました。ありがとうございます」
と、頭を下げる。