魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
14.雷雨の夜
暗い夜。雨のみならず、雷が鳴りだした。バチバチと音を立てて降る雨の音が室内にも響く。
既に、客室で一人になって、あとは寝るだけとなっていたナターリエは、資料室から借りて来た書物をぱたりと閉じた。
「そろそろ寝ようかしら……それにしても、この寝間着……何やら、色々ついているけれど、こんなに可愛いものをお借りしてよかったのかしら?」
普段自分が身に着けている寝間着は、ほとんど飾り気がない。それは、ナターリエが質素なのではなく、貴族全般がそうなのだ。体を締め付けずゆったりとしたもの。肌触りが良いシンプルなものを寝間着にする。
だが、どうやら彼女に与えられたものはリントナー辺境伯夫人のデザインらしく、眠るのに邪魔にはならないが、半そでの袖口やら襟やらにレースのリボンが通してあるし、ゆったりとしつつ胸元で切り替えが入っている。ひざ下までの裾は、内側は一枚布で、外側に足の邪魔にならないようにレースが縫い付けられていた。正直な話、こんな凝った寝間着を着たことがナターリエにはない。しかし、確かに眠りを阻害するほどのものはないので、これもありか、と思わされる。
と、その時、廊下から何やら声が聞こえる。なんだろう、とそうっと部屋の扉を開けると、アレイナが動物のぬいぐるみを持って、泣きながら歩いているではないか。
「アレイナ様?」
「うう、う、ううう……」
どうやら、アレイナもまた、リントナー辺境伯夫人がデザインをしたものなのか、可愛らしい寝間着を着ている。それを褒めちぎりたい気持ちを押さえるナターリエ。
「アレイナ様、どうなさったのですか」
扉を開け放して廊下に出て、アレイナの前に出るとしゃがみこんだ。
「かみなり……きらい……ひと、呼んだけど……来なくて……」
そう言って、ぐすぐすと泣く。なるほど、雨と雷の音がうるさくて、きっとアレイナが呼んだ音がかき消されたのだろうと思う。
「お部屋に戻りましょうか」
「うう、うう……」
ぎゅっとナターリエにしがみつくアレイナ。彼女を抱き起して、とんとん、と背を叩く。
「ふふ、妹が小さかった頃を思い出します」
「いもうと?」
「はい。わたしにも妹がいるんですよ」
「わたしとどっちが大きいの……?」
「わたしの妹の方が大きいですね……アレイナ様、お部屋はどちらですか?」
「あっち……」
まだ目に涙を浮かべたまま、だが、眠たいのか目をこすりつつアレイナは指を差した。廊下には窓がないので、雨と雷の音はあまりしない。だが、部屋の中で聞いた音のせいで、驚いて出てきてしまったのだろうと思う。
(このままなら、きっと泣き止んでくださるわ)
優しくアレイナの背を叩きつつ、アレイナの部屋に向かう。が、角を曲がったところで、アレイナはすうすうと寝入ってしまう。
「まあ、どうしましょう……」
どこがアレイナの部屋かわからない。扉が開いていれば、と思うが、どの部屋の扉も閉まったままだ。
「あら……困ったわね……部屋をひとつずつ開けるわけにもいかないし……えっと、女中の詰所はあるかしら?」
困って廊下を歩いて奥までいったが、どの部屋も扉が閉まっている。これは、一階に女中の詰所があるのでは、と思ってアレイナを抱いたまま階段を下りた。
「あっ……?」
すると、薄暗いエントランスで、誰かが外から中に入って来る様子が見える。バタン、とドアが閉まる音がしたが、アレイナはありがたいことに眠ったままだ。
「うん? ナターリエ嬢?」
「え……あ、ヒース様」
「どうして……おっ?」
薄暗い中、彼女がアレイナを抱いていることに気付くヒース。彼は外套を着ていたが、上から下までびしょ濡れだ。
既に、客室で一人になって、あとは寝るだけとなっていたナターリエは、資料室から借りて来た書物をぱたりと閉じた。
「そろそろ寝ようかしら……それにしても、この寝間着……何やら、色々ついているけれど、こんなに可愛いものをお借りしてよかったのかしら?」
普段自分が身に着けている寝間着は、ほとんど飾り気がない。それは、ナターリエが質素なのではなく、貴族全般がそうなのだ。体を締め付けずゆったりとしたもの。肌触りが良いシンプルなものを寝間着にする。
だが、どうやら彼女に与えられたものはリントナー辺境伯夫人のデザインらしく、眠るのに邪魔にはならないが、半そでの袖口やら襟やらにレースのリボンが通してあるし、ゆったりとしつつ胸元で切り替えが入っている。ひざ下までの裾は、内側は一枚布で、外側に足の邪魔にならないようにレースが縫い付けられていた。正直な話、こんな凝った寝間着を着たことがナターリエにはない。しかし、確かに眠りを阻害するほどのものはないので、これもありか、と思わされる。
と、その時、廊下から何やら声が聞こえる。なんだろう、とそうっと部屋の扉を開けると、アレイナが動物のぬいぐるみを持って、泣きながら歩いているではないか。
「アレイナ様?」
「うう、う、ううう……」
どうやら、アレイナもまた、リントナー辺境伯夫人がデザインをしたものなのか、可愛らしい寝間着を着ている。それを褒めちぎりたい気持ちを押さえるナターリエ。
「アレイナ様、どうなさったのですか」
扉を開け放して廊下に出て、アレイナの前に出るとしゃがみこんだ。
「かみなり……きらい……ひと、呼んだけど……来なくて……」
そう言って、ぐすぐすと泣く。なるほど、雨と雷の音がうるさくて、きっとアレイナが呼んだ音がかき消されたのだろうと思う。
「お部屋に戻りましょうか」
「うう、うう……」
ぎゅっとナターリエにしがみつくアレイナ。彼女を抱き起して、とんとん、と背を叩く。
「ふふ、妹が小さかった頃を思い出します」
「いもうと?」
「はい。わたしにも妹がいるんですよ」
「わたしとどっちが大きいの……?」
「わたしの妹の方が大きいですね……アレイナ様、お部屋はどちらですか?」
「あっち……」
まだ目に涙を浮かべたまま、だが、眠たいのか目をこすりつつアレイナは指を差した。廊下には窓がないので、雨と雷の音はあまりしない。だが、部屋の中で聞いた音のせいで、驚いて出てきてしまったのだろうと思う。
(このままなら、きっと泣き止んでくださるわ)
優しくアレイナの背を叩きつつ、アレイナの部屋に向かう。が、角を曲がったところで、アレイナはすうすうと寝入ってしまう。
「まあ、どうしましょう……」
どこがアレイナの部屋かわからない。扉が開いていれば、と思うが、どの部屋の扉も閉まったままだ。
「あら……困ったわね……部屋をひとつずつ開けるわけにもいかないし……えっと、女中の詰所はあるかしら?」
困って廊下を歩いて奥までいったが、どの部屋も扉が閉まっている。これは、一階に女中の詰所があるのでは、と思ってアレイナを抱いたまま階段を下りた。
「あっ……?」
すると、薄暗いエントランスで、誰かが外から中に入って来る様子が見える。バタン、とドアが閉まる音がしたが、アレイナはありがたいことに眠ったままだ。
「うん? ナターリエ嬢?」
「え……あ、ヒース様」
「どうして……おっ?」
薄暗い中、彼女がアレイナを抱いていることに気付くヒース。彼は外套を着ていたが、上から下までびしょ濡れだ。