魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
16.国王との謁見
 王城に到着して、国王への謁見を申し出た。ありがたいことに、ヒースとナターリエを別々では呼ばず、一緒に謁見が出来るようだった。いや、挨拶だけしたら、退出を言い渡されるかもしれないな……とヒースは思っていたが、敢えてそれは言葉にはしない。

「失礼いたします。リントナー辺境伯が息子、ヒース・リントナーでございます」
「失礼いたします。ハーバー伯爵が娘、ナターリエ・ハーバーでございます」

 と、2人で挨拶をすれば、国王が「遅かったな!?」と即「プチ」お怒りモードだ。

「申し訳ございません。飛竜騎士団が現在いくつかの任務についているため、なかなか単独でナターリエ嬢をお送りすることが出来ず」
「大体、ナターリエよ。リントナー辺境伯領に行くとは、言っていなかったではないか!」
「え? あ、はい。その、何か陛下にご報告が必要でしたか……? そうでしたら、失念しておりました……」
「む、むう……いや、必ずしもと言うことではないが、うむ……」

 それは確かに、と言葉に詰まる国王。王妃が「ナターリエ嬢」と言葉を発した。

「リントナー辺境伯領から古代種が運ばれているようですが、あなたがそれに尽力をしているのですね。ありがとう。それは非常に良いことです」
「はい。そう言っていただけますと、恐縮でございますが、とても嬉しく思います」
「我々は、あなたが魔獣研究所に勤めるとばかり思っていたので、まさかハーバー伯爵家から姿を消すとは思っていなかったのですよ」

 だが、それについては勝手な思惑だ……とナターリエは思いつつ、謝っておいた方が良さそうだったので口を開きかけた。が、国王がそこへ言葉を挟む。

「話を聞いたが、スキル鑑定のスキルを封じて、すぐにリントナー領に行ったのだな?」
「はい」
「むう。まさか、そこまで話が早く動いているとは思わなかった……」

 と、国王は口をへの字に曲げながら、ヒースに声をかけた。

「ヒースよ。リントナー辺境伯家には、面倒をかけたな」

 それは、第二王子についてのことだとヒースは理解をした。

「いえ、大したことは」

 実際に面倒を見たのはリントナー辺境伯邸にいた人々なのだが、そこは国王もわかっているはずのことだ、とヒースは黙る。

「それで、ナターリエは、いつハーバー伯爵領に戻る予定なのだ? ヒース。あとどれほど時間がかかる? そもそも、ナターリエは必要なのか?」

 矢継ぎ早の質問にヒースは「これは」と思う。どうやら国王はナターリエをハーバー伯爵領に戻したい、要するにリントナー辺境伯領での「魔獣鑑定士としての仕事」を奪いたい、と思っているのだと確信をした。

「そうですね……まだ、未開の地があり、そこにも魔獣が多くいるという情報が入っていますので……あと2,3か月は……」
「そんなにかかるのか!?」
「とはいえ、それは概算ですので……」
「まいったな」

 と、国王が王妃を見れば、王妃も溜息をつく。

「何か、わたしにご用がおありなのでしょうか?」
「ナターリエ。あなたに、改めて第二王子の婚約者になって欲しいのです」
「ええっ!?」

 驚きで声が裏返るナターリエ。

「ど、どうして、でしょうか」
「シルガイン王国の公爵令嬢との仲を確認をしたら……先方は、その気がなかったらしく」
「まあ」
「今は、ディーンも冷静になって、反省をしておる。リントナー領で魔獣に襲われたのが効いたようで、すっかりおとなしくなってな」

 そんなことが、とヒースを見るナターリエ。が、ヒースはそれについては何も言わず、じっと国王と王妃の方を見上げている。

「なので、恥を忍んで頭を下げたい。どうか、もう一度、ディーンの婚約者になってくれないだろうか。様々な憶測が貴族たちの間で飛び交っておるのはわかっておる。だが、此度のことはちょっとした喧嘩をしたようなものと思って水に流してくれないだろうか……」
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