魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
17.リューカーンからの依頼
「すまない。速度をあげる。俺も前傾になるので、こちらに体を預けてもらえるか」
「は、はい……」
魔獣研究所で呑気にヒースの帰りを待っていた騎士も、すぐにリントナー領に戻ると言われて大慌てだった。そして、普段はそこまで速度をあげないが、特急で帰ると言う。往復を飛んだ後、更に探索に出るほど飛竜は体力があるのか、とナターリエは驚く。
彼に言われて、背をヒースの胸につける。どっ、どっ、どっ、と鼓動が高鳴る。
(ああ、ああ、あんなプロポーズを受けた後では、どうにも、意識をしてしまいます……!)
「舌を噛むかもしれないし、羽ばたきの音もうるさくなる。なので、ここからは会話が出来なくなる」
「は、はいっ」
「許してくれ」
「も、もちろんです……」
彼の声が近い。ヒースが手綱を握って、飛竜に合図を送ると、羽ばたきの形が変わり、速度があがる。後続の2体もそれに習うように、ナターリエが見たことがないほどの速度を出した。
(うう、風が冷たい……! でも……)
ナターリエは頬を赤くして「話が出来なくてよかったわ……」」と思いつつ、体をヒースに預けた。ヒースはぴったりと自分の胸を彼女の背につけ、腕でその体をしっかりと支える。
(このまま……)
このままの時間が続けば良いのに。そう思ってから「いや、ちょっとそれは言い過ぎたわね……」と一人で反省をする。風は冷たかったが、密着した場所が温かく、腕に抱かれて彼女はそれを「心地よい」と思った。だが。
(ああ、お願い。わたしの鼓動の速さが、彼に伝わりませんように……!)
その心地よさとは別に、彼女はドッドッドと早く高鳴る鼓動を落ち着けようと必死に祈る。そんなこんなで、二時間はあっという間に過ぎて行ったのだった。
リントナー領に戻ると、ナターリエは少しばかりふらつきながら飛竜から降りる。
「ナターリエ嬢。20分だけ休んで、それから着替えて来てくれ」
「わかりました」
「ああ、それと……すまないが、飛竜に乗るのは、引き続き俺と一緒だ。他のやつには任せたくない」
突然何を言い出すのかと思って、ヒースを見上げる。ヒースは、真剣な表情でナターリエを見下ろしていた。
「えっと、あの……」
「譲らない。許せ」
「は、はい……」
そう言うと、ヒースはすぐさま踵を返して騎士団の1人に声をかけ、召集をする。ナターリエは、こうしてはいられない、とすぐに邸宅に入り、ユッテを呼びながら自室に戻った。
「お嬢様、どうなさったんですか」
「あのね、リューカーンの子供が、巣、というのかしら、その、居住区から抜け出てしまったらしくてね。それで、探しに行くの」
「あら、そんなこともお仕事になさっているんです?」
「そうね、古代種で、かつ繁殖が100年に一度ですもの。それぐらいの助けは必要だわ……ユッテ、15分だけ眠るわ。それから、飛竜に乗れる恰好にしてもらえる?」
「かしこまりました」
ベッドではなくソファに倒れ込むナターリエ。飛竜から解放され、要するにヒースの腕からも解放されたため、ようやくじわじわと実感が湧き上がる。
(そうだわ、ヒース様に……プロポーズを……本当なのかしら? 本当に、本当に本当に本当なのかしら!)
だが、第二王子との婚約破棄を取り消して欲しいと国王たちから言われてしまった。王命だとは言われていない。だが、きっとそれはギリギリのことなのだろうと思う。
(でも、今だけ……今だけは……)
喜ばせて欲しい。そう。自分は嬉しかったのだ……そう思いながら、15分の短い仮眠をとるのだった。
飛竜10体で古代種がいるエリアに入り、それぞれで探す。リューカーンからの連絡が入り、子竜の情報を伝えられる。灰色で、手の平ぐらいで、と言われ、思った以上に小さいことにみなは焦る。
「あそこにいるのは違いますか」
一人の騎士に言われ、ヒースの飛竜がかけつける。草むらの中にいる、竜に見えなくもない生き物を指さす騎士。それを、ナターリエが鑑定をする。
「違います。あれは竜ではありません」
サイズが小さいため、飛竜から降りて探索をしなければいけないのでは、と話し合う。彼らがここで魔獣の攻撃を受けないのは、飛竜に乗っているからだ。飛竜から降りてしまえば、獰猛な魔獣が襲ってくる可能性が高い。だが、そうやって探さなければいけないほど、子竜は小さいのだ。
『聞こえるか』
「リューカーン!」
『残念だが、こちらには戻ってきていない』
「リューカーン、相談したいんだが」
『なんだ』
「魔獣たちを眠らせたり、行動不能にしたり、そういうことはそこからは出来ないだろうか。あの、鳴き声に精神を攻撃するものを混ぜたように……」
『出来なくはないが、どこまで届くのかはわからない。また、お前たちの飛竜も眠ってしまうぞ』
「我らは一度、飛竜にのって離れる」
『わかった。だが、効きにくい相手も多い。そういうやつらは10分も倒れていない』
10分は短い。だが、魔獣たちを眠らせてくれるなら、文句は言えないだろうとヒースは決めた。
「は、はい……」
魔獣研究所で呑気にヒースの帰りを待っていた騎士も、すぐにリントナー領に戻ると言われて大慌てだった。そして、普段はそこまで速度をあげないが、特急で帰ると言う。往復を飛んだ後、更に探索に出るほど飛竜は体力があるのか、とナターリエは驚く。
彼に言われて、背をヒースの胸につける。どっ、どっ、どっ、と鼓動が高鳴る。
(ああ、ああ、あんなプロポーズを受けた後では、どうにも、意識をしてしまいます……!)
「舌を噛むかもしれないし、羽ばたきの音もうるさくなる。なので、ここからは会話が出来なくなる」
「は、はいっ」
「許してくれ」
「も、もちろんです……」
彼の声が近い。ヒースが手綱を握って、飛竜に合図を送ると、羽ばたきの形が変わり、速度があがる。後続の2体もそれに習うように、ナターリエが見たことがないほどの速度を出した。
(うう、風が冷たい……! でも……)
ナターリエは頬を赤くして「話が出来なくてよかったわ……」」と思いつつ、体をヒースに預けた。ヒースはぴったりと自分の胸を彼女の背につけ、腕でその体をしっかりと支える。
(このまま……)
このままの時間が続けば良いのに。そう思ってから「いや、ちょっとそれは言い過ぎたわね……」と一人で反省をする。風は冷たかったが、密着した場所が温かく、腕に抱かれて彼女はそれを「心地よい」と思った。だが。
(ああ、お願い。わたしの鼓動の速さが、彼に伝わりませんように……!)
その心地よさとは別に、彼女はドッドッドと早く高鳴る鼓動を落ち着けようと必死に祈る。そんなこんなで、二時間はあっという間に過ぎて行ったのだった。
リントナー領に戻ると、ナターリエは少しばかりふらつきながら飛竜から降りる。
「ナターリエ嬢。20分だけ休んで、それから着替えて来てくれ」
「わかりました」
「ああ、それと……すまないが、飛竜に乗るのは、引き続き俺と一緒だ。他のやつには任せたくない」
突然何を言い出すのかと思って、ヒースを見上げる。ヒースは、真剣な表情でナターリエを見下ろしていた。
「えっと、あの……」
「譲らない。許せ」
「は、はい……」
そう言うと、ヒースはすぐさま踵を返して騎士団の1人に声をかけ、召集をする。ナターリエは、こうしてはいられない、とすぐに邸宅に入り、ユッテを呼びながら自室に戻った。
「お嬢様、どうなさったんですか」
「あのね、リューカーンの子供が、巣、というのかしら、その、居住区から抜け出てしまったらしくてね。それで、探しに行くの」
「あら、そんなこともお仕事になさっているんです?」
「そうね、古代種で、かつ繁殖が100年に一度ですもの。それぐらいの助けは必要だわ……ユッテ、15分だけ眠るわ。それから、飛竜に乗れる恰好にしてもらえる?」
「かしこまりました」
ベッドではなくソファに倒れ込むナターリエ。飛竜から解放され、要するにヒースの腕からも解放されたため、ようやくじわじわと実感が湧き上がる。
(そうだわ、ヒース様に……プロポーズを……本当なのかしら? 本当に、本当に本当に本当なのかしら!)
だが、第二王子との婚約破棄を取り消して欲しいと国王たちから言われてしまった。王命だとは言われていない。だが、きっとそれはギリギリのことなのだろうと思う。
(でも、今だけ……今だけは……)
喜ばせて欲しい。そう。自分は嬉しかったのだ……そう思いながら、15分の短い仮眠をとるのだった。
飛竜10体で古代種がいるエリアに入り、それぞれで探す。リューカーンからの連絡が入り、子竜の情報を伝えられる。灰色で、手の平ぐらいで、と言われ、思った以上に小さいことにみなは焦る。
「あそこにいるのは違いますか」
一人の騎士に言われ、ヒースの飛竜がかけつける。草むらの中にいる、竜に見えなくもない生き物を指さす騎士。それを、ナターリエが鑑定をする。
「違います。あれは竜ではありません」
サイズが小さいため、飛竜から降りて探索をしなければいけないのでは、と話し合う。彼らがここで魔獣の攻撃を受けないのは、飛竜に乗っているからだ。飛竜から降りてしまえば、獰猛な魔獣が襲ってくる可能性が高い。だが、そうやって探さなければいけないほど、子竜は小さいのだ。
『聞こえるか』
「リューカーン!」
『残念だが、こちらには戻ってきていない』
「リューカーン、相談したいんだが」
『なんだ』
「魔獣たちを眠らせたり、行動不能にしたり、そういうことはそこからは出来ないだろうか。あの、鳴き声に精神を攻撃するものを混ぜたように……」
『出来なくはないが、どこまで届くのかはわからない。また、お前たちの飛竜も眠ってしまうぞ』
「我らは一度、飛竜にのって離れる」
『わかった。だが、効きにくい相手も多い。そういうやつらは10分も倒れていない』
10分は短い。だが、魔獣たちを眠らせてくれるなら、文句は言えないだろうとヒースは決めた。