「とりあえず俺に愛されとけば?」





そこは本当になにもないただの通路で、鉄の扉を閉めた佐倉さんはするりと再び私の右手に指を絡めると「こっち」と非常用のような階段を上がっていく。


また右手が熱い。佐倉さんの体温がまた私をダメにする。




「佐倉さん、」

「なに?」




前を歩く背中に問いかければ声音だけが返ってきた。絡められた指先を解こうと力なく引いてみる。


が、ぎゅっと握りしめられ私の右手の逃亡は未遂に終わった。ちらりとこちらを向いた佐倉さんの顔。




「逃がさない」

「べ、つに、逃げません……」




先ほどまで、わんわん泣いた汚い顔を見られたくなくて咄嗟に俯いて佐倉さんに捕まった自分の手を見る。


いまさら逃げたりなんかしないけど、なんなら抱きしめられてましたけど、手を繋ぐというのはなんだろうそれ以上に恥ずかしい。て、中学生か、私は。


佐倉さんに引かれるがまま、長い階段を上がれば目の前には入って来た時と同じような鉄の扉。

開けた先にはSAKURAと同じ建物の中とは思えない普通のオフィスの廊下に繋がっていた。


SAKURAの建物はどうやら下は販売店、上の階は本社になっているらしい。




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