キスマーク
何事か話していた男性社員が去り、課長席から眼光鋭く眼鏡の奥から睨まれた途端、なにかやったな、とは悟った。

二見(ふたみ)!」

「は、はい!」

次の瞬間、それだけで切れそうな一ノ瀬(いちのせ)課長の声が飛ぶ。
なにかやったけ、とか考えるけど、心当たりが多すぎて特定できない。

「会議室」

くいっ、と彼の顎が部内の会議室を指す。
観念して私は、先に席を立った彼を追った。

「どうしてかわかるか」

私の前に座る一ノ瀬課長は完全に怒っている。
どれのことだかさっぱりわからないが、先にあやまってしまう方が勝ちだと口を開いた。

「コピーに失敗して紙を千枚ほど、無駄にしたことですか」

「それじゃない。
というかそんなことしたのか」

「じゃあ、シュレッダー詰まらせたうえに直そうとして、爆発させてそこら中ゴミだらけにしたことですか」

「それでさっきからお前、動くたびに紙屑が落ちてくるのな……。
が、それでもない」

はぁーっと彼が、深いため息をつく。

「それとも……」

「ちょっと待て。
いくつやらかしてるんだ!?」

「えっと……」

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