極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
五章 触れた肌から伝わる想い
六月下旬に入っても、私の生活はあまり変わらなかった。


通常通りに業務をこなして、たまに残業をして。樹くんとはすれ違いながらも、相変わらずそれなりに平穏に暮らしている。


喧嘩をしたことはないし、彼に不満を持ったこともない。
不満を挙げるとしたら、樹くんに抱かれるたびに懲りもせずに彼をどんどん好きになっていく自分自身に……だ。


一方、樹くんはここ数日慌ただしそうだった。
連日の荒天と台風の影響で、フライトスケジュールが狂うことが多かったみたい。


国内線のフライトの日でも帰宅できない日があり、先日は沖縄(おきなわ)で足止めをされていた。
それ自体は珍しくないことらしいけれど、きっと心身ともに疲労感は大きいはず。


ただ、家でも空港内で見かけたときも、彼の様子は普段と変わらなかった。


樹くんは、空港内でもとても目を引く。
CAやグランドスタッフに声をかけられたり囲まれたりしていることも多く、女性客たちから注目を浴びているのも珍しくはない。


たまにしか姿を見かけない私でも、そんな光景をよく目にするのだ。私の知らないところでは、彼はもっと注目を浴びているのだろう。


ただ、私が知る限りでは、樹くんに特別親しい女性はない。誰に対しても分け隔てなく、それでいて壁を作りすぎないような接し方をしている。

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