初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい


「……なんでまた、今更」


 あれだけ婚約中に、「君が嫌いだ」「普通の恋がしてみたい」「私に悪戯をするな」と伝えても、全く意に介さなかったのに。
 先程の彼女は、今までの彼女と同一人物とは思えないような態度だった。

 ようやく伝わったか、と思う気持ち。
 どうして、と思う気持ち。

 二つの気持ちがぐるぐる渦巻いて、私は混乱してしまう。

 これもまた、彼女の罠の一環なのだろうか。

 今までも彼女はよく、泣きまねをしたりして、私を引っ掛けたりすることがあった。
 だから、私は彼女に弄ばれないよう、常に彼女を警戒して生きているのだ。


 つまり、だからそう。
 この日の私は彼女を警戒して、彼女を追いかけなかったのだ。


 ……とはいえ結局、彼女が気になって一睡もできなかった私は、彼女に骨の髄まで飼い慣らされているのだと思う。
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