ヴァンパイア少女の話
プロローグ








 血を飲めないヴァンパイアはどうなる?。











 日曜日。


 人通りの少ない道路を、一人の少女が覚束ない足取りで歩いていく。

 
 色素の淡い少女の顔は異常な程美しかったが、色が悪く、お世辞にも調子が良さそうだとは言えない。

 手足は細く、おかしい程白く、澄んだ目は力ない。




 少女は道路をとぼとぼと歩く。



 商店街を左へ曲がって横断歩道まで来ると、少女は足を止めて信号を見上げた。


 道路には先を急ぐ車がビュンビュン行き交っている。





 赤信号。




 ─────だというのに、
 少女は歩いてきたのと同じ足取りで、突然、ふらり、と道路に進み出た。



「!」



 話者が思わず目を瞑ったその時、横を歩いて来た少年が、咄嗟に少女の腕を掴んだ。


 後ろに引き倒されて座り込んだ少女のすぐ目の前を、車が通り過ぎていく。


 がらんどうの少女の目は、すぐに違うもの、例えば小さな星なんかを映す事になる。



「こら!」



と言いざま、少年が少女の頭にゴツン!とげんこを落としたのだ。



「い、た」



 小さく呻いて、少年を見上げる少女。



「どこ見て歩いてんだよ。危ないだろ!」



 少年はそう躾けられているのか、腕を組んで仁王立ちして、ここで説教までしかねない気迫を見せて小さな少女を睨み据える。

 と、少年の表情が変わった。



「あれ、お前……」



 少年が最後まで言い切らないうちに、少女は急いで立ち上がると、少年が止める前にその場から逃げ出した。





 ────少女の名前は西井晶という。

 小6の晶は血が飲めないヴァンパイアだった。

 父親と母親は、血が飲めない我が子を嫌って家を空けていたので、晶は現在一人暮らしである。

 血が飲めないヴァンパイアは弱るだけだ。

 晶は、その日も、死ぬつもりで歩いていた。





 少女を助けた少年は北沢昴という。

 昴は晶のクラスメートの男の子だ。

 学校で、昴といえば女の子にキャーキャー騒がれる筆頭だ。成績がよく、運動でも何でも良く出来る。




 この二人が話をしたのは、もしかしたらこの時が最初だったかもしれない。



「はあ……」



 歩調を落として元来た道を歩きながら、晶はため息をついた。

 

 死ねなかった。

 疲れて体が重かった。






 







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