ヴァンパイア少女の話
エピローグ





「ヴァンパイアだから僕と話さないの?」

「いた、い」




 図書準備室。

 掴んだ晶の腕を背中でねじり上げながら、昴が笑顔で聞いた。



「なんで逃げるの?もう一回打たれたい?」



 あれから一時的に回復した晶は、もう、家から登校するようになっていた。



 学校に戻ってから晶は、昴を全力で避けた。

 ヴァンパイアだとバレてしまって、どうせ嫌われる、と思ったし、ヴァンパイアである自分が普通の人の昴に関わるのは晶には悪い事の様な気がした。


 昴はそんな晶を暫く観察していたが、避けられ始めたのにはすぐに気が付いていた。



 むかっ腹を立てた昴はそういう次第である。




「あんなに気にしてやったのに、その態度は何?」

「ちが……」

「へー。お前全っ然分かってないよね」




 一度わざと軽く力を込めてから、昴は晶の腕をやっと離した。


 休み時間走って逃げていった晶を、昴はこの図書準備室で捕まえたのだった。




「晶」

「……」

「桐崎ってどんな奴?」

「?。琥珀は…… ……小の同じ年」

「違う。お前にとってどんな奴かってこと」




 昴は小さくため息をついた。

 夏の間に準備室は整理されて、本棚には、しまい損ねた地域の資料が数冊だけ立てかけてある。

 司書の先生も、片付いた部屋をわざわざ見回る事はなく、準備室の鍵は、開けっ放しに放置されていた。



「僕はヴァンパイアに偏見を持ってないよ。時々血を飲まなきゃいけない変わった種族って思ってる。本人達のせいじゃないし、別に気にならない。」



 それはとっても微妙な問題だったが、恋というものがどういうものか、昴には最初からはっきり分かっていた。



「ねえ、晶、僕の目を見て話せる?」



 心地良い風が吹いてきて、ふわりと二人の髪を攫った。





「お前が好きだ」





 やがて意思に満ちた声で昴が言った。





「晶、大人になったら、結婚して。」






 午後の日差しに2人の影が透き通って伸びていた。










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