帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません

やっと見つけた、自分の道~大我side~

新しい計画は、新規の住人ばかりに注視したこれまでのプランとは、全く違う。

駅結型の高層マンションが二棟立つことに変わりはないが、二つのマンションの間には、現在の美丘駅前商店街と同じレイアウトの商店街を設置する。

少しだけ場所は変わるものの、道幅は広くし、アーケードで上空を覆って、全天候型の商店街として生まれ変わるのだ。

高齢の店主が営む店は、引退後新しい事業主が継承できるよう、将来経営者となる若手を優遇して住まわせるソフト面での仕組みも提案した。

「俺はな、自分の代で店を終わらせるつもりだったから、今回の再開発は気が進まなかった。でもなあ、店がきれいになって、跡継ぎも出て来てくれるってんなら、ちょっと考え直すかなぁ」

そう言って立ち上がったのは、そば屋の中原さんだ。

俺は深くうなずいた。

「自分の店を持ちたいと言う若い人はいます。そういう人と皆さんの橋渡しができたら、と考えています」

説明を聞く人々の目が、かすかに期待に輝くのを見て取った。俺は続けた。

「『リボーン美丘』の計画は大きく方向転換します。従来のお住まいの皆さんと新しい若い住人の皆さんとの懸け橋となる街『美丘ブリッジ』です」


会場は湖面のように静かで、音ひとつない。俺は張り詰めた空気に身を刺されるような思いでその場に立ち、反応を待った。


自分のやるべき筋道を決めた。
父は金に物を言わせようとしてきたけど、俺は違う。

俺がすべきは、住む人を思った街づくりだ。人と人とをつなぐ架け橋を作りたい。

それを教えてくれたのは、芙優、君を愛したからだ。



俺は思わず一番後ろに座っている芙優に目を向けた。じっと見つめるその目もまた、俺と同じように緊張して見えた。俺は大きく息を吸い込んで、再び口を開いた。




「実はこの前、つきしまの鯛焼きをよく買いにきていた中学生の亮真くんが、こんな風に言っているのを聞いたんです。

 “どんなにおしゃれな場所でも、芙優がいる限り結局『つきしま』は『つきしま』だ” って。

その時に思ったんです。場所は変わっても、美丘駅前商店街のひとたちがいれば、そこは美丘駅前商店街になる、って。

だから今回、商店街まるごと移転してみよう、と思い立ったんです」



プレゼン資料には載せていない、予定にないことを俺は思わず口走った。本心とはいえ、余計なことを言ったかな…と不安に駆られた直後、拍手が一つ、二つと鳴った。

最後には、会場のみんなが拍手をしていた。芙優が立ち上がって、力いっぱい手を叩いている。その顔には、満開に咲く笑みがこぼれていた。



「よくやった、次期社長」

鳥壱の商店街会長が、口元に片手を添えて声援をくれた。


< 19 / 21 >

この作品をシェア

pagetop