祝福のキスで若返ったかつての英雄に、溺愛されることになった聖女は私です!~イケオジ騎士団長と楽勝救世の旅と思いきや、大変なことになっちゃった~

08 帰りたくない

 今日は野営でなくて、街道沿いの宿屋で宿泊することになった。

 勇者と聖女のご一行の予定の日時は先んじて周知されているから、私たちは割と大所帯なんだけどいつも御用達の宿屋があり、部屋が取れないということは絶対にない。

 私は慣れない営業スマイルを浮かべつつ、集まっている人たちに手を振った。そうしたら、拍手と大きな歓声が聞こえて聖女様コールまで……アイドルじゃないよ!

 ……うん。魔物を倒すための救世の旅については、百回以上事故もなく無事だからと皆慣れ過ぎなんだと思うんだよね。

 聖女だけど、芸能人が来た訳じゃないんだから……この世界では、似たようなものなのかもしれないけど。

 今回の聖女である私は、宿屋の中でも最高級の部屋を用意されることになる。馬鹿王子エセルバードだとしても、そこには異論がないようで慣例に従ってはいる。

 けど、王族の彼はそれに準じる程度の部屋を用意して貰えるので、お互いに距離を取っているテントでは離れることが出来るけど、宿屋の部屋では階数も同じで近い部屋になってしまう。

「何か目に見えて役に立つような能力があれば、他国へ行く際に伴う愛人にしてやっても良かったのに……本当に、何をどうしても際立つところのない普通の女だな。残念だ」

 部屋の扉を開こうとした私を下から舐めるように見たエセルバードは、残念だと言わんばかりにため息をつきつつ言った。

 強い怒りが心の中にわき上がったものの、魔法の言葉「あれは、三歳児」を心の中で何度も唱えた。

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